向山の大蛇

記事編集:尾崎を語る会会員


尾崎の昔話(2)「向山の大蛇」
上杉太郎

これは、わいがおじいから聞いた話しやが……

丸山越えの山あいの谷には、尾崎の隠し田があっての…
その段々畑の下から、一段、二段、三段と何か松の古木のようなものが曲がりくねっているのを目にした。
何かいつも見慣れない事柄に我が目を疑いながら、尚よく見ると、四斗樽位の胴まわりのものが、くねりくねりたしかに動いている。
その異様なものの動いたあとの畑には、タイヤのあとのような模様がつき、ざぁーと引きずる草は押し倒されていく。

大蛇だ。

老人はそこらあたりに担いてきた鍬をほり投げるようにして駆け出した。
どのようにして帰ったかはわからない。
三日三晩うわごとに大蛇のことを言い続け、高熱に唸されて、とうとう息を引き取っていった。……という。

昔老人が見た大蛇は信じられてよい話であるが、それには大事なことが一つある。

「隠し田」のことだ。

隠し田は丸山峠の棚田の中にあって、貧しい尾崎の生活を支えるためにあった江戸時代からの、他人に言ってはならない土地であったらしい。
大蛇の話を持ち出すのも、人々の知恵であったかもしれない。
明治九年には赤穂城内の宅地・田畑は厳重に検地されている。



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